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歌謡曲リミテッド スペシャルインタビュー

ファーストにして金字塔、傑作アルバム『化粧室』完成!

取材/鈴木啓之 取材・文/竹部吉晃 公開日:2018年5月14日

ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーの女装シンガー3人による音楽ユニット、星屑スキャットのアルバム『化粧室』が4月25日にリリースされた。結成13年、メジャーデビューから6年を経てようやく完成したこのアルバムは、歌詞、アレンジ、音色、コーラス等々のすべてに配慮が行き届いた逸品である。待った甲斐があった。ファンはきっとそう思ったに違いない。気品高く、上品な音楽でありつつ、ウィットに富み、ユニークさや皮肉も忘れない、間違いなく今年最高のアルバムと言える。ソロでも多忙に活動する3人にロングインタビューを敢行した。

――結成13年、メジャーデビューから6年での、待望のファースト・アルバムが世に出るということについての感想から伺えますか。

和恵:今まで出したシングルに収録した曲を合わせると結構の曲数があるんですが、なかなかアルバムを出せるタイミングがなくて、ようやく実現したって感じです。

メイリー:ファンの方からアルバムで聴きたいというリクエストをたくさんもらっていたので、皆さんのおかげで、ただのシングルの寄せ集めじゃないアルバムとしてお届けできるのが、うれしいです。

ミッツ:この6年間、アルバムを出せば売れるのに、なぜアルバムが出せないんだろう、って思っていたんです。なぜなら、今の人はシングルを買わないから。でも、音楽業界にはまずシングルを出すという、既定路線みたいな決まりがあるので、とりあえずシングルを出すんだけど、リスナーはどうせシングルが出たあとにアルバムが出て、そこに入るんだろうな、って考えている。

――確かにそういう慣例はありますよね。

ミッツ:レコード会社の供給とリスナーの消費意欲のバランスが取れてないんじゃないか、という音楽業界の大いなる矛盾を考えていました。

――難しい問題ですね。

ミッツ:音楽業界のシステム上致し方ないのかもしれないけども、コロムビアさんは、よく6年も辛抱してくれたなって思いますね。デビューから6年もアルバムが出ないという状況は、普通だったら、解散するか、クビ切られるか、移籍するか。そこは、私たちの所属するセクションが、時間の流れが若干スローな歌謡曲部門だったからかもしれないけど、これがポップスの部門だったら、「ありえない」という話になると思うんです。そこに救われたとは思いますが、個人的には、私たちは歌謡曲の枠の中にいる意識は全くないんです。

――確かに、このアルバムは一般的なイメージとしての歌謡曲のイメージはあまりありません。

ミッツ:個人的なことを言うと、私は今までの人生の中で、ひとつのことをクリアするのに、こんなに時間がかかったことがないんです。目標を立てず、行き当たりばったりで生きてきた人生ですが、私はひとつの願望を抱いたら、頭の中でシミュレーションをして、だいたい2年くらいでクリアしてきました。なのに、星屑スキャットのアルバムに関しては、「なんでこんなに事が上手く運ばないんだろう。この私が!」って思っていました。傲りかもしれないですが。

――デビュー・シングルの「マグネット・ジョーに気をつけろ」から6年経っているって驚きですよね。

ミッツ:最初のシングルを出したときに、想定した3年計画みたいな自分のビジョンが、ひとつも思い通りに行かなくて、「これが人生か」みたいな……。でも、6年間で貯まった曲を寄せ集めたアルバムを出したいと言う気持ちは一切ありませんでした。そういう手法もとれたとは思いますが、自分の意地もあり、オリジナルのアルバムを出すということにすごくこだわりました。

――歌詞、メロディ、アレンジ、歌、コーラス、パッケージのすべてにこだわりが感じられます。

ミッツ:昔の曲を入れることに関しては、ちゃんとした根拠があれば入れるべきだと思っていたので、選曲と曲順については、あらゆるパターンをつくって、いろいろシミュレーションしました。東京と新大阪を仕事で移動するときに、何百回とリピートして聴いて。

――何百回も?

ミッツ:アルバムをフルで聴くことを想定したときに、だいたい5曲目、6曲目でダレるんです。途中で飛ばしたくなるといいますか。そういうことを想定して、曲順を考えたので、そこに関しては、他の二人には一歩も譲りませんでした。

――全体的にミッツさん色が強い感じはしました。

ミッツ:アルバムにA面とB面って言う概念をつくりたかったんです。6曲目の「降水確率」までがA面で、その後実は3秒くらい開けているんですね。それで、レコードなりカセットを裏返して、そこから「星屑スキャットのテーマ」が始まり、古い曲が続いていくという流れを考えたんです。

――なるほど! 5曲目までは怒涛ですもんね。

ミッツ:せわしいグループですよね(笑)。落ち着かないというか。最初から3曲くらいすごい勢いですよね。

――そういう意味で、アルバム後半に収録されている、少し前のシングルは、3人の声が今とは違って聞こえますね。

ミッツ:中塚さんのアレンジの傾向や音色も、そのときどきの流行の傾向があるみたいで、それも影響していると思います。古い曲と新しい曲と並べると、少し違って聞こえるけど、それも良いのかなと思いつつも、いちばん自然な並べ方に落ち着いたと思います。どの辺があれ?って思いました?

――「マグネット・ジョーに気をつけろ」をこのアルバムに収録したところでしょうか。

ミッツ:星屑スキャットは、言うほど世の中に浸透していません。「マグネット・ジョーに気をつけろ」は、ファンの間では定番曲かもしれないですが、世間って言う意味では「マグネット・ジョーに気をつけろ」をこのアルバムで初めて聴くという人も多いはずなので。

――そういう意味で、ファースト・アルバムに「マグネット・ジョーに気をつけろ」を入れるのは不可欠だったんですね。あえてシングル・バージョンで入れた理由は?

ミッツ:実はこの曲は2バージョンがあるんです。オリジナル・バージョンは、生バンドで録ったものでした。でも、今回はシングル・バージョンを入れています。ミックスは変えていますけど、録り直しはしていません。あのバージョンが、私の中では完成形だと思っていますから。録り直すと、また曲順が変わってくるんですよ。あとは、潜在意識の中で、「マグネット・ジョーに気をつけろ」を入れることで、保険をかけているところがあるかもしれないです。全部オリジナル曲で勝負するよりも、星屑スキャットは、昭和歌謡の威光を借りているグループです、みたいなイメージもあるので、もしかしたらそういう、あざとさが出ているのかもしれない。

――昭和歌謡の要素を持った曲はこれだけですよね。ほかの曲は、2018年のポップスになっています。その点については、中塚さんの貢献度も高かったと思いますが。

ミッツ:中塚さんと星屑スキャットの集大成という意味合いも出したかったんです。そういう意味では「ご乱心」を収録するかについては、すごく迷いました。この曲だけ違う人の書いたものなので。でも、人気のある曲だし、キャッチーだし、外すことはできなくて。だったら、どういう位置付けで、どういう聴かせ方をしようかを考えたとき、最後にミックスを変えて入れようと思ったんです。

――クラブ仕様というか、現代的ですよね。

ミッツ:これを入れたことで、私の中でこのアルバムが完結したというか、出来上がったという実感がありました。「ご乱心」は、思い通りに行かず、紆余曲折している最中にいただいた曲で、複雑な感情をもっていました。今回、曲順を組んでみて、改めてこれを最後に聴いたときに、「澄まして駆け込んだ化粧室の鏡」っていうフレーズがすごく心に響いたんです。このフレーズこそ自分たちが突き詰めて行きたい価値観というか、世界観だなって。

――ここからタイトルが取られているんですね。

ミッツ:タイトルを決める際、ふと「化粧室」という言葉が浮かんだんです。それは、実はこの曲の歌詞で聴いていたんだって気づいて。このパートを歌っているのは自分じゃないんですが、ライブで歌っているときって、自分のパートじゃない歌詞のほうが無意識に頭に入っているもので、それが残っていたんでしょうね。同時に、「森雪之丞すごい!」って。見栄とはったりと、強がりと弱さももろさも表裏一体で戦っていく感じが、この言葉に出ているんです。

――3人が星屑に変身するっていう意味の化粧室っていうか。

ミッツ:我々の女装もそうですが、普通に化粧をする女の人もそうじゃないでしょうか。化粧室って一回心を静めて、もう一回臨戦態勢に戻すみたいな場所じゃないですか。煮詰まったときに、一瞬個室にこもって一回リセットさせるとか。男の人だったら、長い会議中に一息ついて「どうなんだろなー、どうだと思うぜ」とか言って、会議室に戻って体面を繕うみたいな。女性だったら陰口叩いたり、「ねえ、知ってる?」というような噂話をしたり。

――ありそうですね。

ミッツ:人を出し抜くためのアクションを考えて、自分の気持ちを高めたり。嫌なことがあって泣くとか、電話するとか、化粧室は、いろんな人が集まる場所だけど、実はみんな孤独で、その人たちの感情が交差し、本性の出る場所ですよね。そういう意味では私たちも同じで、女装家なんて特にその辺のちぐはぐさを強引に押し付けて貫いている存在なんです。

――タイトルが決まってから、和恵さんがデザインを考えたのですか。

和恵:化粧室をどう見せたらいいんだろう、となったときにミッツさんが「ヒゲを剃るってどう?」って言ったんです。女装家がヒゲを剃るって、ありえないじゃないですか。絵面的に強いなって。でも、グラフィック的なアイデアは締め切りのギリギリまで浮かんでこなくて、色々とイメージを重ねて作ったんです。

メイリー:着物のコンセプトは早く出ていました。時間的な制約のなかで、インパクトを与える衣装はなんだろうなって考えて。今まで3人でやったことない衣装で、ボーナストラックに入っている「新宿シャンソン」のCDジャケットのイメージを変えるっていう意味もあったんですね。そこから着物の色を選んでいきました。

ミッツ:おかまの映像や写真って世の中にたくさんあるけど、ヒゲを剃っている写真は見たことないなって。ヒゲを生やして女装しているおかまは、何年か前にいたんですよ。でも、ヒゲを剃っているおかまは見たことがない。その辺はインパクトがあるんだろうなって。私はもともとヒゲが生えない体質で、シェーバーでヒゲを剃った経験がないんで、何となく面白いんじゃないかと思って。

――インパクトのあるジャケットですね。

ミッツ:CDジャケットのイメージって、手数が少ないんです。とくに3人組グループは、制約がないと成り立たないものだと思うので、その制約の中でどれだけ幅を広げていくかっていうところがカギなんですね。3人の並び方や配置とか、自分たちの中の黄金比率や暗黙の了解を崩すのに結構な勇気が必要で。星屑スキャットは、フォトグラファーの人を含めてずっと同じチームでやっているので、制約や枠の中で突き詰めてみたときに、これかなって。でもその次は、欲望や欲求、気合みたいなのが出てきて、枠や制約を飛び越えてみたくなったり、はみ出してみたくなったりするはずなんです。

メイリー:着物もそういう衣装ですからね。縛られているからこそ自由になれるみたいなものって、女装する私たちにはピンと来るものがあるかもしれないです。女装で昼間は歩けないとか。

ミッツ:そう。女装って、自由に見えて制約が多い。男が女に装うんだから、条件や制約の中でやらないと女装にならない。私の演出の理論として、ひとつ役柄というフィルターをかませることが必要だと思っています。「好きにやってください」とか「ありのままでどうぞ」というのは、私の中では演出として破綻しているんです。「今日のあなたはこういう役柄で。こういう気分で。こういうことをやってください」という型をその人に与えると、そこからその人の個性が隙間をすり抜けてにじみ出てくるんです。リミットがないとダダ漏れで、個性が伝わらないんです。

――その通りですね。アルバムを聴いていても、やっぱりミッツさんの活躍が目立つんですが、特に作詞・作曲の面で驚くんですが、勉強されていたんですか。

ミッツ:私は20代で天才的な曲をつくって、それから湯水のように曲が溢れ出て、それが売れるというビジョンを描いていました。若い頃はそこを目指して学校で習っていました。そういえば、それも想定外でしたが……。自分としては、不本意ですが、これは40代にならないと成熟しない才能だったと思います。

――特に「愛のミスタッチ」「半蔵門シェリ」はとても完成度の高い曲だと思います。

ミッツ:自分のためにつくらなかったのがよかったんです。若い頃は、曲中に自分のエゴが出るから、客観性がなくて、誰にも伝わらず、誰にも響かなかった。ただカッコ付けたいだけみたいな。

――このパートは誰が歌うということを想定されて曲を作るんですか。

ミッツ:中塚さんがつくってくれた曲のフォーマットがあって、それを参考にしながら3人それぞれのレンジを踏まえて曲をつくっていきました。フォーマットがあるぶん、その逆をいくっていうパターンも出来たんですけどね。でも、それぞれのクセがあるので、だいたいここはこの人が歌うんだろうなとかを想定しました。

――歌詞は?

ミッツ:3人の声を聴きながら書きましたが、いざレコーディングになると、その通りには絶対にならない。「もっとこういうふうに歌っていたのに!なんでできないの?」みたいな。

――その場合、入れ替えたりするんですか。

ミッツ:その歌にフィットさせるように歌います。その歌になるための歌い方を丁寧につくり込むんです。だから、普段の歌い方が全々通用しないというか。ライブをこなしていくうちに歌えるようになっていくんですが、最初のうちは自分の中にはなかった歌い方があって、そこが星屑スキャットの面白いところですね。

――確かに、星屑スキャットの和恵さんは、ソロとは違いますよね。

和恵:プラスティックな感じと言いますか。あまりウェットには歌っていないですね。

ミッツ:3人のバランスとして考えたとき、自分の声がいちばん出やすい音域で声を張るのは、いい場合とダメな場合があるんです。私は3人の声が混ざったときにひとつの声になるという作り方をするので、3人が得意なところで歌ってしまうと、グループの歌声ができないんです。エゴを削っていかないと、グループの意味がないんですよ。そういう意味では、3人ともストレスがたまったと思います。私は皆のエゴを押さえつけて、「こうやってくれ」と言っても、そこから出てくるものが個性であって、「降水確率」は歌入れのときにいちばん戸惑ってしまった曲なんです。でも、最終的には私のエゴだったというか、妄想だったんですが。結局、レコーディングして、出来上がったものが今のあるべき姿なんだな、と思いました。それは初めての経験でした。

和恵:この曲は、アルバムの中でもかなりストイックな感じがしますね。最初の頃の曲は勢いがあって、前のめりに歌っているパワーがあると思うんですが、6年間やってきて、特にレコーディングという経験を重ねてきたことで、徐々にソフィスティケートされてきて、星屑ってこうなっていくんだっていうことに気づいて、自分としても、新鮮というか、びっくりしました。

――3人のソロのときに感じられた個性は、ここではあまり感じられませんね。メイリーさんの高音は耳に入ってきますけど。

メイリー:3人が同じ絵を見られるようになっているのかもしれません。ミッツさんがその絵を見せてくれたおかげだと思います。

ミッツ:三者三様でいい場合と、足並みを揃えないとダメの場合があって、曲の中でもフレーズによって違うんですね。歌入れでは、そこを詰めていく作業に根気が必要で、同じ絵を3人が共有できないまま、それぞれが歌うと、まとまらなくなるんです。それは初期の段階から言えることで、フレージング、息継ぎ、ビブラートの感覚も3人で揃えていこうという気持ちをもっていました。

――それは3人じゃないとわからないことなんですかね。

ミッツ:3人でやってきた歴史ですからね。このアルバムまでは、誰にも口出しさせないっていう感じでやってきましたが、今後はわかりません。今回、私の中ではやり遂げた感はありますから。

――1曲の録音にすごく時間がかかっているのが伺えます。

ミッツ:本当に時間がかかるんです。ボーナス・ディスクに収録された「新宿シャンソン」は、リリー・フランキーさんがとても高価なスタジオでレコーディングさせてくれたんです。そこで20時間くらいかけて、オケと歌を録って。終わったときにリリーさんが「お前ら、めんどくせえグループだな」って(笑)。歌入れのとき、3人で順番にディレクションをするから、自家中毒を起こすんですよ。それでも三者三様というところがあるんで、辻褄がだんだん合わなくなってきて、もう一回戻ってみようか、みたいな。その繰り返しだから効率が悪い。ひとりの監督がいて、そこの指示に従って3人が動くっていうのをやってこなかったんです。

――作詞家のミッツさんについてうかがいたいのですが、ミッツさんの歌詞を読んでいると、昔の歌謡曲っていろんな言葉が出てきて、いろんな表現があった、ということを気付かせてくれます。知らない固有名詞とかもあったりして

ミッツ:基本的に私は“ごっこ遊び”をしたいんです。“歌謡曲ごっこ”や“昔のアイドル”ごっこ。今日は、来生えつこになろうとか、松任谷由実になろうとか。私は、作詞家として独自の世界を築こうなんてこれっぽっちも思ってないので、単純に今まで自分の中に蓄積された音楽の“ごっこ遊び”をしたいっていうことなんです。

――いろんな音楽を聴いてないとできないことですよね。

ミッツ:“ごっこ遊び”が伝わらないこともありますしね。でも伝わってくださる方がいると嬉しいです。

――タイトルから想像力が膨らむ曲も多いです。

ミッツ:私はタイトルを付けるのが下手なんです。ブログとかで文章を書くとタイトルを付けなきゃいけないじゃないですか。一言に集約するのができなくて、タイトルが長くなっちゃう。要約能力がないんだと思う。「半蔵門シェリ」は、東京MXの番組のことを書くというテーマが自分の中であって、そこから近所にある景色の言葉をもってきました。番組の特徴を違う言葉で書き換えるとか。これはスルッと出来たんですが、常にテーマが与えられるわけではないから、そうじゃない歌詞はどうするんだろうと思って。「ANIMALIZER」っていう曲の歌詞をその後に書いたんですけど、これがまさに私の悪い癖が出ちゃった歌詞なんです。自分で書いているのに、何を言いたいのかわからない。この曲は、インディーで出したので、他者のチェックを受ける必要もなく、「何やってもいいか。やりきっちゃえ!」って思って。単純にその音を聴きながら言葉をはめ込んだだけなんですよ。それで、あとで帳尻を合わせるためにストーリーを考えて、何となくこういうことなのかな、みたいな感じで作ったんです。

――曲調に言葉を乗せて行くっていうのは、みなさんやられているように思いますが。桑田佳祐さんなんかもそんな感じがしますが。

ミッツ:ああいう人の歌詞はよくできているの。最終的に帳尻を合わせるのがプロの仕事で、それをちゃんとしないといけないなとは思うんだけど。でも、これはこれでいいと思っていて。「ANIMALIZER」は、最後に「冒険するほどじゃないのアバンチュール」っていう、フレーズがあるんです。一度しか出てこない、このメロディがあったから、最後にめちゃくちゃなことを言ってもいい終わり方が出来ると思ったので、良い意味で開き直って書きました。辻褄の合わなさや、不親切な表現はあるけど、音重視で言葉を乗せた分、曲全体の疾走感みたいなものが出たのかなって勝手に解釈しています。

――「波の数だけターコイズ」は気持ちが上がりますね。80年代のカイリー・ミノーグが聴こえてきそうな。皆さんで詞を書かれたということですが。

和恵:曲が先にできていたのでそれを聴いて、この曲からイメージするワードを集めてみようっていうことになったんです。3人の頭の中に何が浮かんで、何を歌いたいかとか、こういうふうな世界に近づけたいみたいなことを出し合ったんです。

ミッツ:中塚さんと最初に打ち合わせをしたときに、「早い曲ばかりだから、バラード1曲、ミディアム1曲を新曲でつくりましょう」という意見が出て、ワム!の「Everything She Wants」っていう曲名が挙がったんです。「このくらいのテンポ感のエイティーズをやって見ようか」って言ったら、「やってみる」と言っていただき、ピチピチした感じのこの曲ができてきて、「さすが中塚さん!」って。私は聖子ちゃんの「Rock’n Rouge」のイメージでしたね。

――歌詞にはシンディ・ローパーが出てきますが。

ミッツ:それは和恵さんです。シンディ・ローパーを歌詞に入れるか? ちょっと強引な気がするけど。

――固有名詞が効いていますよ。

ミッツ:中塚さんはアレンジからしっかりつくってきてくれるんで、3人で思い浮かぶワードを送り合いましょうとなったときにも、全員がほぼ同じワードを送ったんです。ピンナップガール、海岸線、FMとか。

――40代、50代に受けそうですね。

ミッツ:80年代にサザンやユーミンを聴いていた世代は、今は少しくたびれた印象があるけど、その世代の人が久しぶりに海に行ってみようかって思いついて、ひとりで湘南あたりをドライブしているシチュエーションなんです。今の湘南・茅ヶ崎はパリピのイメージが強いけど、「何よ、あいつら」みたいな感じのエグみのある夏の歌を書いてみようと思って。

――レコーディングは楽しそうですね。

メイリー:久しぶりに曲の中に遊びの部分を入れたので、レコーディングが楽しかったです。曲のイメージに3人で乗っかっているみたいなところがありました。

ミッツ:歌入れは、3人で盛り上がり過ぎてしまうとエンジニアさんだけ置いて行かれちゃうんですよ。でも、エンジニアさんはレコーディングのカギですから、エンジニアさんの頭の中に絵が出来てないと、いい音が録れない。この曲は最初、エンジニアさんは、「3人の言っていることがわからない」って言っていたんです。でも、途中から「わかりました」って言ってくれて、最終的には「面白い曲」と言ってもらえたので、いいものが出来たと思うんです。そういえば、この曲は、東京に大雪が降ったときに録ったんです。1月のすごい雪が降った日がありましたよね。電車もタクシーもとまるから不要不急な外出は避けてくださいみたいな日に録ったんです。

和恵:気分は常夏で録ったという(笑)。

――メイリーさんの高音が効いていますね。

メイリー:ありがとうございます。一生懸命歌いました。「大雪だからレコーディングやめないんですか?」って言いながら(笑)。

ミッツ:タイトルは最後に和恵さんが付けてくれたんだよね。ホイチョイ・プロダクションの映画やフジテレビのドラマ「抱きしめたい!」とか「君の瞳をタイホする!」みたいな感じのタイトルにしたいよねって。そうしたら和恵さんが「波の数だけターコイズ」って言って。

――ターコイズって一般的な言葉ですかね。

ミッツ:エンジニアさんも「わからない」って。おかま的には「夏はターコイズ色のシャドーを入れよう」とか「ワンポイントでターコイズを入れよう」みたいな感じで、夏の代名詞としてよく使うんです。女装家の間では、ちょっと上級者が使う色で、ターコイズを使えたらイッパシみたいな。80年代の杏里とか山田詠美とか、水色のシャドーを小麦色の中に入れているイメージがあるじゃないですか。自分的にはエイティーズの夏と言ったら水色で、ちょっと上級者で、年も取ってきているから、「水色じゃなくて、ターコイズを使いこなしますよ」みたいな。そういう意味で選んだんだけど、伝わらなかったよね(笑)。

メイリー:毎年夏になると、水色の化粧品は出るよね。

ミッツ:でも、昔の化粧品のCMソングって、知らない言葉が出てくるじゃないですか。

――そうですね、化粧品じゃないですが、コパトーンとか?

ミッツ:それは商品名だけど。でも、コパトーンっていい響きよね。今回、気に入っている言葉が、缶コーラ。今、缶コーラってあまり言わないですよね。缶コーラっていう響きはなんだろう?って考えたら、松田聖子の「渚のバルコニー」なんです。この曲を聴くたびに笑ってしまう(笑)。ダサいけど、オシャレだなって。だから、80年代っぽい言葉として缶コーラっていう言葉を使いたいなって。

――「HANA-MICHI」も新曲ですか。

ミッツ:これは、未音源曲だったんです。結成10周年のときに、記念曲が欲しいってことになって、中塚さんに「泣ける曲を」とリクエストして作ってもらったんです。でも、すごく難しい曲で、10周年ライブの最後に歌ったんですが、すごく下手で……。

和恵:「泣ける」とか言っても、よくわからないまま歌っていたんですが、レコーディングして歌い方もまとまってプレイバックしたら、本当に泣ける歌だってことがわかって。

ミッツ:わたしは常にフィクションとノンフィクションの中間にあるような歌詞を書きたいと思っているんですが、この曲はまさにそういう内容なんです。自分のことを歌っているわけではないけど、ともすれば自分のことを歌っていますって伝わっちゃうような内容だから、そこに2人は戸惑っているのかなって思っていました。

和恵:エモーショナルな歌だと思っていて、最初のうちは熱唱する歌なのかなって思いながらリハーサルをして、本番に挑んだんですが、そこから何回か歌っていくと、熱唱というよりもさらりと歌うことで、この曲の切なさが見えてきたんです。途中までは気付きませんでした。

メイリー:私はこの曲に卒業ソングみたいなイメージがあったんです。それまでの世界を捨てて、大人になるみたいな歌詞でしたので、女の子から女、恋人からの卒業、そういう主人公を勝手に思い浮かべていました。それと私の声にすごいギャップがあって……。

ミッツ:生娘みたいな声で歌うもんね(笑)。それを40のおっさんが歌ってもなって感じだけど、他人を演じて歌うのが歌謡曲だと思うの。

メイリー:最初はどう歌うのが正解なんだろうって戸惑いました。

――この曲があるかないかでアルバムのイメージが違いますよね。

ミッツ:だから、ボーナストラックの前に入れたかったんです。

――サビが特にいいですよね。

ミッツ:ハーモニーは凝っています。何重構造になって、誰がどこを歌っているのか記憶してないくらい。自分でつくった曲って、譜面にしないから、忘れてしまうんです。

和恵:主旋を録った後に、それをバックに鳴らして、即興でハモってみるんです。それを何回かやって、「これだ!」っていうのがガイドになる。譜面に書くというより、耳で聴いたハモりの気持ちよさが大事で、あとはそれぞれが歌って覚えるんです。

――ハモりは、和恵さんが担当ですか。

メイリー:だいたい和恵さんですね。

和恵:みんなに吟味してもらうんですが、仮で歌うのは私です。

――「HANA-MICHI」は和恵さんがソロで歌う姿が想像つきます。

ミッツ:そうかしら。和恵さんっぽい感じって言ったら「ターコイズ」じゃない? すごい身のほど知らずかもしれないけど(笑)。

和恵:どっちが身のほど知らずなの(笑)。私、「ターコイズ」には聖子ちゃんだと思っていて、自分なりの聖子をイメージして歌っていたんですけど、それは星屑だからできるモードチェンジなんです。ソロで歌ったら気持ち悪いって言われちゃう(笑)。

ミッツ:「ターコイズ」は、歌入れのとき、上手い下手ではなくて、聖子ちゃんに似ている、似ていないという点がポイントでした。

――以前の「青い珊瑚礁」のカバーのときは。

ミッツ:あれは逆に聖子から遠ざけていかないといけないから。

和恵:オリジナル曲はおもいっきり“ごっこ遊び”が出来るのに、カバーは逆にオリジナルからどう逸脱するか。いかに、自分たちのオリジナルにしていくかという作業ですよね。

メイリー:悪い意味で、ショータイムっぽくなっちゃうもんね。

――最後に、「新宿シャンソン」についてお伺いします。ディスクを分けている意味でも、この曲がアルバムに入っている意味は大きいのかなと思うんですけど、この曲に関してそれぞれの思い入れをお聞かせください。

和恵:「新宿シャンソン」はリリー・フランキーさんの世界を自分たちが表現した、っていうのもあるから、別のディスクに収録したんですね。

ミッツ:「新宿シャンソン」は4~5年ライブで歌ってきて、ある程度熟成させた部分があるので、それをひとつの録音物として枠の中に収めるという作業が大変でした。難しい歌なので、時間もかかって。「新宿シャンソン」に関しては、作詞のリリーさんと作曲の上田禎さんがディレクションをしてくれた部分が大きいんです。

メイリー:リリーさんや上田さんがディレクションに入ってくれて、私はすごく伸び伸びとやらせていただいたと思います。

――歌詞は3番までありますけど、3人のことをそれぞれ書いているっていうことではないんですか。

ミッツ:これはリリーさんのファンタジーです。これを自分たちのことだと思って歌ったらこの曲はダメだと思っていて。でも一方では、お客さんからは、私たちが、この歌の主人公になっているように見えないとダメなんです。こっちは粛々と紙芝居屋さんのように歌うっていう。そこの分析がないとこの曲がただの長い曲になっちゃう。

――1番2番3番を、それぞれソロで歌っているわけでもないですもんね。

ミッツ:曲と歌詞の関係性には、ドライな部分があって。でも客席側からはそれが一体になって見えるところが必要だと思うんです。自分たちのことを歌っているわけじゃないけど、この人じゃないとこの世界観は伝わらないっていうところを出さないと。誰が歌ってもいい曲ではないから。

メイリー:この曲は、讃美歌を歌っている気分になるんです。歌詞に引っ張られるっていうのもあるんですけど、自分がのめり込むというのではなく、何か歌わされているって感覚が私はあります。

和恵:リリーさんは、3人に歌ってほしいという気持ちで、この曲の歌詞を作ったと思うんです。歌の中に花園や新宿、古いバラックという、ゴールデン街にしか思えないような言葉が出てくると、私がそこにお店を持っているというのもあって、どうしても歌が自分に近くなってしまうところがあって。でも、私の個人的な歌にしちゃうと、それもちょっと違うなって思ったり。難しいんですが、自分の中には、この曲に共鳴できる何かがあるんです。演じているけど、自分の素も出しつつで、とても不思議な歌といいますか。

ミッツ:この曲をいただいて、私は初めて星屑スキャットの需要っていうものを感じたんです。今まで供給一方で、誰も別に欲していない、求めていないのに自分たちが好きで歌っているというバランスが、この曲で初めて需要が上回ったという実感があって。ということは、需要に対する責任としてこの曲を一生歌っていかなきゃいけないんだっていう使命感を感じるんです。

――重要な曲ですね。

ミッツ:ヒット曲ってそうじゃないですか。中尾ミエさんは「『可愛いベイビー』なんて本当は歌いたくない」って言うんです。でも「それは私にいう権利はない。あれはみんなの曲だから」って。「世の中に聴きたい人がいるのであれば、私は責務として歌う」って。そういう曲を持っている人は、もはや好き嫌いという次元じゃないんですよね。でもそういう曲に巡り合えるっていうのは、歌手としてとても幸福なことで、私的な感情で照らし合わせると若干気が遠くなるときがあるんです。

――ヒット曲を一時封印しても結局歌っている人は多いですよね。

ミッツ:あと、この曲は長尺なので、歌うのに体力がいるんです。たたずまいや表情もつくり込まなきゃいけないので、中途半端な気持ちでは歌えない。一生歌い続けるとなると結構大変だな、この曲が代表曲になったらどうしよう? という気持ちもあるんですが、今ライブに来てくれるお客さんのほとんどは、この曲が目当てなんです。終演後、物販売り場に「『新宿シャンソン』はないんですか?」という問い合わせが結構あったみたいなので。そういう意味では、すでにこれは私たちの曲じゃなくて世の中の誰かの曲なんです。

――これから歌う度に変化して何年か経ったらまた別の曲になっているということですよね。

ミッツ:歌は生き物だから、ライブだけだと変化していって、世の中の需要や要望と違う方向に行っちゃうことが多々あります。ずっと歌っているうちに、何でそんなバージョンにしちゃうの? とか、なんでその節回しに変えちゃうの? と思うことはよくありますよね。でも、今回、CDにしたということは、永遠の命をもらったということなんです。盤は年を取らないですからね。そういう意味で、リリーさんにもすごく喜んでいただいています。

――特別な曲であることがよくわかりました。レコーディングまでの熟成期間が必要であったと?

ミッツ:リリーさんの中には、独自の歌謡曲の定義があって、新宿を舞台にしたのも、いろんなファンタジーを掻き立てる街だからだと思うんです。さきほど、和恵さんが言ったように、妄想ってどんどん膨らんでいっちゃうじゃないですか。それを自分自身に置き換えて歌おうとしても、それはリリーさんの妄想だから違う。それでもやっぱり何年も歌っていると重なってくるんですよね。必然的にオーバーラップしていくみたいな。でも、私たちも年取って、しなびてきていますので、そういう意味で、この曲のエグさにも対応できるようになってきています。書き下ろしていただいてすぐにレコーディングしても、それは表現できなかったと思うので、熟成させるにはある程度の年数が必要だったんだと思います。

――この曲があるから星屑はこれからも続いていくみたいなものはありますか。

メイリー:なっていくといいんですけどね。でも私たち辞めようって話したことないですよね。

ミッツ:いま辞めたってしょうがないじゃない(笑)。その先にもっと輝く希望があるなら喜んで辞めますけど。辞めるってことに話題性があるとか、皆から惜しまれるとか、そういう見返りがあるなら辞めるっていう選択肢があるけど。今は辞めたってなにも別に変らないじゃない。

――キャンディーズみたいに絶頂期で解散ということですか。

ミッツ:あれは若さがあって大人になっていく過程の中での解散だから話題になった。今さら解散したとしても私たちは何も変わらないですよ。私たちが今20代だったら喜んで辞めるって思うよね。

【CDリリース情報】

『化粧室』

発売中

3,241円(+税) COCP-40302-3品番

<収録曲>

DISC1
1.Knock Me In The Middle Of The Night
2.愛のミスタッチ
3.ANIMALIZER (2018 new mix)
4.半蔵門シェリ
5.波の数だけターコイズ
6.降水確率
7.星屑スキャットのテーマ (2018 new mix)
8.マグネット・ジョーに気をつけろ (シングル・バージョン)
9.Interlude – Cosmetic
10.コスメティック・サイレン
11.REMEMBER THE NIGHT (2018 new mix)
12.HANA-MICHI
Bonus Track
13.ご乱心 (2018 extended mix)

DISC2
1.新宿シャンソン

 http://www.hoshikuzu-scat.com/

星屑スキャット

ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵、メイリー・ムーの3人によって、2005年に結成された『音楽ユニット』。新宿2丁目を中心とした活動をする中、全国各地でのイベント出演やコンサート開催を経て、よりエンタテインメント性の高いグループへと成長。時代やジャンルを越えた幅広い歌謡曲を、それぞれの個性豊かな歌声と洗練されたハーモニーで魅せる唯一無二の世界観に、さらなる注目が集まっている。

□ミッツ・マングローブ
歌手、ドラァグクイーンとしてステージに立つ傍ら、テレビタレントとして様々な番組で活躍中。2011年3月「若いってすばらしい」で、念願のCDデビューを果たす。
ソロ歌手活動と並行して、2012年は星屑スキャットとしてもCDデビュー。

□ギャランティーク和恵
2002年、歌手活動をスタート。歌謡曲を懐メロとして捉えることなく選曲し唄うスタイルを特徴とし、都内を中心にライブ活動を行う。最前線で活躍するミュージシャン、クリエイターと共に、現代的で華やかな世界を追求し、セルフプロデュースによるリサイタルも精力的に開催している。また、新宿ゴールデン街のバー「夜間飛行」のオーナーとしての顔も持つ。

□メイリー・ムー
2005年、ミッツ・マングローブ、ギャランティーク和恵とともに星屑スキャットを結成し歌手活動開始。沖縄出身。百万ドルの笑顔で老若男女を魅了している。2012年春、念願のソロ・デビューも果たした。

 

『東京レコード散歩』2017年2月22日発売。東京にちなんだ曲だけを収録したコンピレーション・アルバム『東京レコード散歩』第二弾がレコード会社3社から同時発売!

ラジオ歌謡選抜

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