トップページ コラム/レビュー 東京レコード散歩 東京レコード散歩 その③ 六本木<前篇>

東京レコード散歩 その③ 六本木<前篇>

東京レコード散歩 その③ 六本木<前篇>

文/鈴木啓之 (アーカイヴァー) 

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六本木は銀座とはまた別の意味で、若い頃の自分にとって敷居が高く、新宿や渋谷に出かけるのとは違って少々の気概を要する街だった。

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帰っちゃおうかな/小椋 佳(昭和47年)

外国人が多く、遊び慣れた人種がたむろしている印象(実際にもそうなのは間違いない)で、いたいけな学生にはなかなかに近寄り難かったのだ。そのイメージが薄れ、わりと気軽に六本木へ行けるきっかけを作ってくれたのが、昭和58年、大型レコード店「WAVE」の開店である。外観のカッコよさや売り場の充実ぶりなど、従来のレコード店の概念を打ち破る斬新さがあり、WAVEで買物をすること自体にステイタスのようなものを感じさせた。発足時の「ディスクポート西武」から発展したもので、セゾン文化華やかなりし頃の象徴のひとつといえるだろう。

しかし、他の街と同様、六本木も徐々に変貌を遂げ、かつてWAVEがあった場所は、今は六本木ヒルズの一角となっている。WAVEの思い出話が出来る相手も、そしてもちろん自分もすっかりオジサンになってしまったのはチト哀しいが仕方ない。

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写真奥に見えるのが六本木WAVE。
2000年くらいの撮影か。

さて、昔から六本木での待ち合わせ場所は交差点のアマンド前と相場が決まっている。今回の散歩も解りやすくアマンド前の交差点からスタート。まずは六本木通りと交差する外苑東通りを逆の飯倉方面へと向かう。この一帯は2007年に公開された映画『バブルへGO!』で、90年代初頭のバブル時代の光景がCGとセットで見事に活写されていた。中でも、今もあるステーキハウス「瀬里奈」へ入る路地の角にあったパン屋さん「DONQ」の忠実なセットには感心することしきり。そういえば森永ラブ(ハンバーガーショップ)もあったなぁなどと思い出す。映画にはスクエアビルのテナントがディスコで埋め尽くされていた頃も再現されており、ディスコには殆ど出入りしなかった自分でも知っている「マジック」「ネペンタ」「キサナドゥ」などといった店がひしめき合っていた賑やかな時代が追体験出来て楽しい。コロムビアの創立100周年記念歌手・伊藤美裕は、この映画を見ながら自らが知らない当時のイメージを頭に描いて、デビュー曲「六本木星屑」のレコーディングに臨んだという。バブル時代の熱気を彷彿させる佳曲なので、ぜひ聴いてみてください。

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ここではもっと昔、野獣会が存在していた頃の六本木を追い求めて、通りの正面にそびえる東京タワーへ向かって直進。左手にドンキホーテを見つつ、ロアビルを過ぎ、飯倉片町の交差点を渡ると住所は麻布台となり、憧れのレストラン「キャンティ」が現れる。ここはかつて文化の発信地として、政財界人や文化人、芸能人が多く訪れたことで知られる老舗イタリアン。初代オーナーの川添浩史は皇族の秘書官を務め、パリに長く在住するなど国際文化交流に携わったことから、妻の梶子と共にカフェ・ソサエティとしてのキャンティを創業したのであった。

IMGP2309渡辺プロとの関係も深く、併設されていたブティック「ベビードール」のデザイナーでもあった梶子夫人はザ・タイガースの衣装を誂えていた。その梶子夫人に殊のほか可愛がられたのが荒井由実である。浩史の息子の音楽プロデューサー・川添象郎が、作曲家・村井邦彦と共にアルファレコードを立ち上げ、ユーミンやYMOらのプロデュースを手がけたのも有名な話。キャンティには、その後のバブル期にも著名人が多く集った。興味がある向きには林真理子の小説「アッコちゃんの時代」をお薦めしたい。『バブルへGO!』を監督した馬場康夫が興味深い解説文を寄せている文庫版でぜひ。

その先には、青い看板が目立つライブハウス「ブルーシャトウ」がある。かつてのメンバーの方が経営しているそうだが、前を通るたびに気になりつつも未だ入ったことがなく、いつかは訪れたいと思っている。さらに進み、麻布郵便局の向かいに以前からあるカラオケ店「フェスタ」は、コスプレカラオケが売りながらちゃんと食事も出来る店で、何度か行ったことがある。ここはかつて、「狸穴そば」という老舗のそば店があった場所。店の前に「狸穴坂」の道標があるように、旧地名を麻布狸穴町といった。

IMGP2305狸穴そばの由緒ある佇まいは、昭和45年の映画『ブラボー!若大将』で見ることが出来る。若大将の実家であるすき焼屋・田能久の外観として使われているので、DVDなどでご確認あれ。狸穴というなんとも粋な地名は、ムードコーラスの名歌「別れても好きな人」にも歌われている。が、昭和50年のロス・インディオス盤では2番で登場する“狸穴”が、シルヴィアが加わって大ヒットした54年の再録音盤では“高輪”に差し替えられてしまったのは残念。なおこの歌を最初に歌ったグループは「小さなスナック」で知られるGSバンド、パープル・シャドウズで、同じ44年には東芝の女性歌手・松平ケメ子によるシングルも出されていた。正に10年越しのヒット曲となったわけである。

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trs3 帰っちゃおうかな

帰っちゃおうかな/小椋 佳(昭和47年)
NET(現・テレビ朝日)で放映されたドラマ『泣きべそ・ほゝえみ・六本木』の主題歌。酒井和歌子や沖雅也が出ており、六本木が舞台であったらしい。アマンドのテントがしっかりと。

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六本木のベンちゃん/ザ・ナンバーワン・バンド(昭和57年)
名DJ・小林克也率いるアバンギャルドなバンドには、桑田佳祐も参加。この2ndシングルも嘉門雄三名義で作詞・作曲・編曲している。歌詞に出てくるゴトウ花店は今も健在なり。

trs3 哀愁の六本木

哀愁の六本木/井上宗孝とシャープ・ファイヴ(昭和43年)
橋本淳=筒美京平コンビによるGS期の一曲。写真のテラス席は今のロアビルの裏辺り? もう一枚の写真に「レストランアザブ」の看板があるが、衣装が違うので別場所かもしれない。

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ミスリム/荒井由実(昭和49年)
荒井由実時代のセカンド・アルバム。ジャケット写真は川添宅で撮影され、ピアノも梶子夫人のもの。アルバムは夫人が世を去った5ヶ月後に発売され、彼女を偲ぶ意が込められた。

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別れても好きな人/バープル・シャドウズ(昭和44年)
東芝の松平ケメ子との競作となったが、当時はまだヒットせず。50年にロス・インディオスがカヴァー、さらに4年後にシルヴィアが加わって再録音され、翌年大ヒットに至った。

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六本木星屑/伊藤美裕(平成23年)
コロムビアの創立100周年記念歌手のデビューシングル。作詞吉元由美、作曲川口真で80年代バブル時代を再現。ちなみにタイトルは星屑と書いてスターダストと読ませる。

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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