トップページ コラム/レビュー 8cmの嗜み 第1回 バブルから始まる物語

第1回 バブルから始まる物語

第1回 バブルから始まる物語

鈴木啓之(アーカイヴァー) 

それは正に日本がバブル景気の真っ只中、誰もが浮かれていた頃(実際はそうでもなかったけれど)に登場した。手のひらサイズの可愛い音盤、8cmCDシングルである。この度、新たに始めさせていただくこの連載では、今から30年ほど前に現れて約10年間ほどで役目を終えて消えていった愛しのCDシングルのことを書いてゆきたい。もちろんマーケティングなどの専門的な話ではなく、こんな盤やあんな盤があったという音盤大喜利が主になると思うので、どうか気軽にお付き合いいただきたい。とはいえ、まずはCDシングルが登場するに至った時代背景について書いておかなければならないだろう。

1982年10月1日に国内、そして世界でも初のCD(=コンパクトディスク)のソフトが発売された。第1回発売はCBS・ソニー(現・ソニーミュージック)からで、洋楽はビリー・ジョエルのアルバム『ニューヨーク52番街』、邦楽は大滝詠一『A LONG VACATION』が筆頭を飾ったことはわりと有名なのではないだろうか。それでもまだ再生用の機器が高額だったこともあり、最初の3~4年はアナログ盤が主流だった。その後、ハードの値下げやソフトのラインナップの充実で徐々にCDの需要が高まってゆき、1986年には販売枚数ベースでCDがLPを上回ることになる。これには各レコードメーカーの親会社にあたるオーディオメーカーとの関係も少なからず作用していたことは間違いない。アナログからデジタルへの移行は、昭和の終わりとも重なる1980年代の後半に訪れたのだった。この稿で話の主軸となるCDシングルの登場はアルバムの発売から少し後のことになる。

ウィキペディアによれば、世界初の8cmCDシングルはフランク・ザッパの「Peaches en Regalia」のアメリカ盤らしいのだが、日本ではどうだろう。これまたウィキペディアでは、1988年2月21日に発売されたものが8cmサイズのCDシングルの最初だという記述がある。その年の6月には早くもCDシングルがアナログシングルの盤の販売を上回ったというから、シングルに関してはほぼ最初から高い需要があったことになる。ケースは従来のアナログシングル盤を縦に切った半分のサイズに填め込み式のプラケースが仕込まれたもので、その細長い形状から、後に“短冊”などと呼ばれるようになる。

では、なぜ入れ物がそのサイズになったかというと、レコード店がそれまでシングル盤を陳列するために使っていた什器をそのまま使えたからだ。アナログシングルの幅に8cmCDシングルを2列並べて収めることが出来るようにとの配慮からだった。店によっては、従来のアナログシングルのジャケットと同じ大きさとなるケースに8cmCDを入れて陳列していた記憶がある、なんてあまりマニアックなことばかり書いていると貴重な女性の読者が減ってしまいそうなのでもう止めよう。

とにかく、87年頃からレコード店の棚はみるみるCDが増えてゆき、アナログ盤は急速に追いやられていった。当時頻繁に通っていた東京・秋葉原の石丸電気のレコード売り場でもその移り変わりは甚だしく、行く度にレコードの棚が縮小されていくのが判った。それこそ一週間単位で変わっていたのではないだろうか。そんな移行期には、同じタイトルのシングルやアルバムがレコードとCDの両方で発売されていたものも多く、88~89年頃はすっかり数が少なくなってしまったレコードを懸命に買い漁った。おかげで後に入手困難となる小泉今日子の「学園天国」や、中山美穂の「Midnight Taxi」などのアナログ盤も定価で買うことが出来たわけだが、「Midnight Taxi」に至っては90年が明けてからのリリースで、その時分にはもうアナログでのリリースは演歌系以外ほとんど無くなっていたのである。

後藤久美子
「初恋に気づいて」10CA-8002 1988.2.21

ここではCDシングルのスタートを飾った88年2月21日リリースの盤をいくつか紹介しておきたい。まず老舗のコロムビアからは、後藤久美子のセカンドシングル「初恋に気づいて」。この曲は1月21日にマキシシングルとして発売された後、1ヶ月後に8cmでも出されたという経緯があり、まだCDシングルの形態がはっきりと定まっていなかった故の試行錯誤が見られる。約10年後に主流となるマキシシングルの先駆けが、この時代に既に存在していたことは記憶に留めておきたい。ちなみに8cm盤の品番は10CA-8002で、8001は島田奈美「タンポポの草原」、8003は山下久美子「メロディ」だったから、コロムビアの8cmCDシングルの歴史は、島田奈美から始まったことになる。

ビクターの記念すべき1枚目、品番のVDRS-1001は桑田佳祐の「悲しい気持ち」で、87年10月6日にレコードとカセットテープで出されていた曲の初CD化。同社のエースに1番が用意されたのは当然であろう。同時発売として荻野目洋子や酒井法子らアイドルの名前が並ぶ中、目を惹かれるのはトニー谷「さいざんすマンボ」である。87年7月に世を去ったトニー谷の追悼盤として、大瀧詠一のプロデュースで同年11月に出されたアルバム『ジス・イズ・ミスター・トニー谷』からのシングル・カットで、アナログシングルとの同時リリースだった。この辺りのシングルに関しては、レコードよりもCDの方が珍しい筈だ。

その他のメーカーでは、東芝EMI(現・ユニバーサル)の1枚目が長渕剛「乾杯 -NEW RECORDING VERSION-」、ポニーキャニオンが尾崎亜美『悲しみはBEATに変えて』との記録があるが、両社共に2月25日リリースで、4日遅れのスタートであった。東芝EMIは松任谷由実「SWEET DREAMS」も第1回発売ラインナップの1枚に入っていた。これらの初期CDシングルはいずれもトレイ部分を真ん中から2つに折ってさらにコンパクト化させるという意図があったため、ジャケットのデザインも正方形が縦に2つ並ぶ形で、上に写真、下にタイトルと歌手名という2分割が基本だった。しかしやがてトレイを折ることは推奨されなくなり、縦長の形状を活かしたデザインが主流となってゆく。と同時にミリオンセラーが頻発する8cmCDシングルの黄金時代が訪れるのである。

というわけで、第1回はCDシングルの誕生期をレポートするセミナーの様になってしまったが、次回からはもっと楽しく盤のあれこれを紹介する予定なので、どうか懲りずにお付き合いください。ごきげんよう、さようなら。

松任谷由実
「SWEET DREAMS」
東芝EMI CT10-2003
1988.2.25

トニー谷
「さいざんすマンボ」
ビクター VDRS-1008
1988.2.21

 

桑田佳祐
「悲しい気持ち」
ビクター
VDRS-1001 1988.2.21

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