トップページ コラム/レビュー チェリーの歌謡曲ワンダーランド 唇よ、熱くカタストロフィを語れ!『カタストロフィの雨傘』中森明菜

唇よ、熱くカタストロフィを語れ!『カタストロフィの雨傘』中森明菜

唇よ、熱くカタストロフィを語れ!
『カタストロフィの雨傘』中森明菜

文/チェリー 

ひとつふたつ雨のしずく、ポツリポツリ…。

こんな日の街角では、ビニール製の傘をさす人をよく見かける。それどころか、その割合たるやかなりのものになっている模様。ヘタすると、布製のそれよりも多いのではないかといった風にも見えるのである。そしてビニール傘と言えば、

「あれ?ポツっときたな」

と感じるや否や…それらが店の軒先にズラリと並べられる光景。これを見る度に、ニッポン小売業における商魂のたくましさ健在を感じずにはいられなかったりもする。笑)

それはさておき、ビニール傘の役目と言えば、突然の雨に降られた時のその場しのぎ…というものが主なものなのかと思う。が、15年ほども前に購入した1本の安ビニール傘を、どこも悪くせず、日常的に使い続けた人がいるというのは仰天ニュース扱いになるのか。なにを隠そう、その張本人が筆者だったりもする。笑)

元々、物持ちが良いというのもあるけれど、ビニール製の傘とて、大切に使い続ければそれくらいは耐久するのである。もちろん、社交場へ持っていくに恥ずかしくないような傘(いわゆる布製の)は持ち合わせてはいるなれど、あえてビニールの、透明傘を選んで使う時もある。例えば、風がやや強めの雨天。前方から吹きつける雨防止用、またはウインドブレーカーとしても大いに役に立ってくれるのである。要は、傘を前へ倒したとて、オーナーの視界を遮らないという利点がそこに。しかし、いかんせん、安物がゆえの貧弱性は否めず。つむじ風のような暴れん坊に煽られると“カタストロフィ” あっという間にぶっ壊れ、使い物にならなくなる”大惨事”に見舞われる。これに関しては、台風の直撃を受けたばかり?最近のミ・ナ・サ・マも♪経験ずみよ~といったトコロか。

さて、カタストロフィと聞いて思い出すのがこの曲、『カタストロフィの雨傘』である。

表題曲は、中森明菜(以下、明菜嬢)のセカンドアルバム『バリエーション<変奏曲>』に収録。発売は1982年10月27日、12曲入りで、しめて2,800円という価格で販売された盤である。この曲はB面の、しかも一番最後(エンディングテーマは除く)に収められていたことから、そのアルバムを〆る、重要な役割を担っていたはずと考える。

そんなお役目に沿わせてか、この曲は、ずっしりと重いバラードに仕上げられている。どこか、映画音楽を思わせる荘厳な響きが特徴で、とある1本の傘をモチーフに、劇的なストーリーを描いていく。

作詞:篠塚満由美 作曲:和泉常寛 編曲:若草恵

歌中のドラマを描いたのは、篠塚満由美氏。この名前を見て、「おや?」っと感じる方は歌謡曲通のはず。そう、彼女は70年代に、しのづかまゆみの名で歌手デビューし、『パパはもうれつ』という超絶コミカルな曲を唄った方だからである。以降はイメージを変え、『チョット見のいい女』風ルックスで自作ポップスを唄ったりもしていたのだが、どうにもヒットとは縁遠く。しかし、彼女の中できらめいていたのは、むしろ文才の方で、多くのアイドル歌手へ歌詞を提供したのである。しかもこれに留まらず、90年代には、しじみとさざえというデュオを結成。モノマネ芸人としても名を馳せたという、とにもかくにも変幻自在?器用な方という印象が強い。

そして、和泉氏は作曲兼編曲家として知られ、代表作に大場久美子の『スプリング・サンバ』。この他、ボーカルがカルロストシキ氏へ変更になってからのオメガトライブ『君は1000%』や『アクアマリンのままでいて』も彼の作品になる。また、菊池桃子がロック歌手へ大転身したことで話題騒然となった、ラ・ムーのシングル全曲を手がけたのも彼といふ。♪シッシッシッシ~お米屋さんでのみ販売されていたという謎の清涼飲料水プラッシー。そのCMソング『Si! Si! C! 』甲斐智枝美もこの方の作品だったりもする。と、お気に入りアイドルの話題をとりあえずネジこんでみる。笑)

さて、そんな布陣により紡がれた『カタストロフィの雨傘』は、一本の傘が悲劇を招く物語。

『カタストロフィの雨傘』|テーマ

彼には、本命とおぼしき女(ひと)がいる。その影を確信する主人公は、別離を切り出した。あなたが…私だけを見つめていないから。だけど、残り火はある。だから、やんわりと…嘘を並べながら「さよなら」を口にしたの。そぼふる雨の坂道…傘を手に追いかけてきた彼。あなたのやさしい気質は変わらない。でもその傘は…女物。知・ら・な・い・女物の傘…慌てたの? まだ気づいてないの? 最後の思い遣り…やさしさをありがとう。だけど今…火照った頬を伝う、涙が教えてくれる。やっぱり思ったとおりだったと。お願い、もう消えて…幻でも見ていたよに消えて欲しいの。あなたの言いなりだった私だけれど…さようなら。私なりのカタストロフィ(破局)…この愛の幕を下ろしたいの、わかって。

『カタストロフィの雨傘』|聴きどころ

1:クラシック風の、厳かな調べ。物語性のある、秀逸の歌詞。
2:低く、冷たく響き渡る!むせび泣きのストリングス(弦楽器)。
3:明菜嬢の類まれな表現力。エフェクトのかかる歌声(扇風機前で歌唱したような?)。
4:突然の破局を表現!?いきなりブツ切りになるエンディング。

そもそも、”カタストロフィ“という言葉は、自然災害等により引き起こされた被害を”大惨事”として表す場合などによく用いられ、類語としてディズアスターやトラジティも存在する。が、状況等によって使い分けが成されているようなのである。筆者の、海のむこうの暮らしにおいても、日常の生活でよ~く耳にする言葉なのである。

1:突然の大変動、大損害、大惨事。大きな破滅、被害。
2:取り返しのつかない崩壊、不運な状態。
3:(芝居や小説などの)悲劇的な結末、破局。大詰め。

調べたところによれば、元来はギリシャが語源、フランスで「カタストロフ」と発音され使われていった。それがいつしか英語圏でも使われるようになり、綴りは一緒なれど「カタストロフィ」という発音になった模様。トロフィだからといって、新人賞の受賞等で号泣と共に授与されるアレとの関係は一切合切ない。当時、この曲の題名を目にした時は、そういう類のものが脳裏をかすめたことは告白しておくが。笑)

♪雨音はピアニッシモ ひとつ覚えのように
銀色の坂道の 足跡さえ洗ってゆく
めかくしをしたままで 100まで数えてるわ
お願いそのあいだに 幻でも見ていたよに 消えて欲しい

♪最後のやさしさの 傘を抱きしめ
火照った頬伝たう 涙の味をかみしめてる
あなたの言うこと なんでもきいてた
私なりのカタストロフィ……わかって……

この曲は、どこまでも悲しく切ない。低く、冷たく響き渡るストリングスの音色は、五臓六腑にもたれかかるような重みがある。主人公の悲しみ、落胆、憤り、悔しさ、絶望…そういった感情のすべてを込めるかのように、むせび泣き続けるのである。ここにのっかるのが、明菜嬢の感情豊かな歌声ということになる。歌唱当時、弱冠17歳…よくぞここまで主人公になりきったナというのが率直な感想。彼女が、なぜゆえに“歌姫”と呼ばれるのかは、この曲での歌声に耳を傾けてもらうことでも合点に至るはずである。その感情表現のきめ細やかさといったら…聴いている側が憑依され、あたかも歌の中の世界へと引きずり込まれてゆくような、そんな効果をもたらすほどなのである。また、悲しみだけでなく、ひとりの女子の成長を描いているのも特徴。そう…それまでは男の言いなりだった彼女のひとりだちを。


↑アルバム『バリエーション<変奏曲>』のジャケット裏面、そして、本楽曲が歌われたコンサート『明菜 Milky Way ‘83』コンサートで販売されたパンフレット。

それにしても、この物語に出てくるオトコはヒドい。本命の女の傘だなんて…動揺したがゆえのとっさの行動だったとしても、これは最悪の過失なのではないかと。“知らない女物の傘”とあえて強調していることから、彼の母の傘でもなければ、女家族の持ち物でもないとおぼしき、異様な存在感を放つものなのだろう。雨に濡れないようにという、相手を思い遣るやさしさには感謝する。が、その思慮の浅さには愕然としてしまう。サビで、一瞬メジャー調へと相転じるのは、雨雲の切れ間から差しこむ弱々しい光のよう。主人公の、かすかな期待を表現してみせたのかなと考える。しかし、“知らない女物の傘”とやらを手渡され、涙の味をかみしめたその後は…。

彼の行動が計算ずくのものであった場合は、なおさら許せないだろう。しかし、思慮がなさすぎるのもトホホ。どっちにしても、カタストロフィるのが正解の相手ということでよろしいような。こういう方とでは、その後もロクなことなく“取り返しのつかない崩壊”しか待ってなさそうだからである。そういう意味で主人公が、私なりに出した“破局”という結論は、全くもって正しいのかと。日常でも感じるが、女性の、相手選びにおける勘ぐり力には感服する。稀にハズレもあるようで?殴られても蹴られても、くされ縁を持ち続けてしまうなんてこともあるようだが。

それでも…人を好きになるというのは、こういうことらしい。

♪雨音はフォルティシモ ふりむいたそのときに
あなたがいたらなんて 悲しいほど望んでいた

主人公の中では、彼への未練がくすぶっている。雨音がピアニッシモからフォルティシモへ。その強さを増したとて、想いの炎は消え失せないのである。「もしかして…」という、淡い気持ちも抱きながら。

♪濡れているマロニエが 鮮やかにうつすのは
知らない女物の 傘をまわし しずくはじく 私だけね

しかし、悲しみの淵へ追い込まれた彼女をよそに、肝心の彼の姿はもう見当たらないといふ…ガーン。

ホラホラ…だからこういう人はダメだと言ったでショ。せめて姿が見えなくなるくらいまではネ…社交辞令でもいいから見送るものなの。さもなくば、後ろから抱きしめて「やり直そう」とかサ…少女まんが『キャンディ・キャンディ』のテリュース・ジー・グランチェスター君がしたように。そもそも、この彼にだって思い当たるフシがあるだろうにヨ。本命じゃないから、ないがしろにするのか?そもそも、このようなオトコとの出逢い自体が“カタストロフィ”?人生における“大損害”のようにも思えてくるから困ったもの。はたまた、「シメシメ、作戦成功!」とばかりの、ズル賢いタイプのオトコだったとしても大差はない。それこそ、その性根の悪さに怒髪天(どはつてん)を憑き、白装束で呪い釘?丑の刻参り(うしのこくまいり)する手間が増えそうなだけ?

まぁ、オトコという生き物の話しはさておき、美しく切ない映画音楽のような調べに酔いしれ、主人公の気持ちに浸りまくるのも乙なもの。明菜嬢が曲の中で、打ちひしがれながら男に見切りをつける女を見事に演じ切ってくれているため、意識せずとも、雨がそぼふる坂の下~ってな状態になるのだが。


↑コンサートで歌唱された曲目一覧。”カタストロフィー”と記載されているが、正式には”カタストロフィ”。可憐な白いドレスと、それに合わせたハイヒールが良くお似合いの明菜嬢。


↑暖炉の前でパチリ。17歳という年齢がお気に入りとのこと。

ところで、似たような風情のメロディーを、どこかで耳にしたナと思うこと度々。はて?映画なら、このテのBGMはクライマックスを迎える場面で使われているのでは?いや、そういう一般的なものではなく、もっと明白的な何か。そうそう、90年代のはじめ頃に観た映画、『ニュー・シネマ・パラダイス』かしら。

イタリアは、シチリア島のとある田舎町。そこには唯一の娯楽場、“ニュー・シネマ・パラダイス”と呼ばれる映画館があり、町の人々でにぎわっていた。その町で、映画に魅了される幼少年がいた。その名はサルヴァトーレ。映写技師のアルフレードおじさんとは、仕事場にいたずらで忍び込んで以来の、親子のような仲。時は流れ、アルフレードはこの世を去り、かの幼少年も初老の域に達していた。久しぶりに舞い戻ったわが町…そこで、アルフレードが遺しておいてくれたという形見を手渡される。中には、つなぎ合わせの古びたフィルムが…。それは、幼き日に「欲しい」とねだり、断られたものだった。

かの昔、男女のキスシーンすら猥褻とされていた時代があった。町の司教により検閲が行われ、映写技師がハサミでパッツン。その切れ端を欲しがった映画好きの幼少年、サルヴァトーレ。その形見は、そんな彼を思い遣るアルフレードおじさんが残してくれた“最後のやさしさ”だったのである。つなぎ合わされたキスシーンの連続を目にし、在りし日のおじさんとあの頃を偲ぶ。そして、“頬に伝う涙の味をかみしめる”のである。

あまりにも有名なシーンになるので、これを観て涙したという方も多いのではないかと思う。そこで流されていた調べを彷彿させる『カタストロフィの雨傘』。かといって、旋律がそっくりというワケではない。しかし、悲しいストリングスの響きという共通項が、脳内で化学反応を起こしダブらせるのかもしれない。

この映画は、マイカル本牧に併設の、洒落た映画館で観た。米軍接収時代…横浜の、本牧という場所には“フェンスのむこうのアメリカ”が存在した。マイカル本牧とは、その跡地に建てられ1989年4月オープン、選び抜かれたインターナショナルブランドのショップ群と、欧風デザインの粋を集めたショッピングコンプレックスだったのである。周辺には高級ホテルも建ち並び、誰もが未来の繁栄に期待を寄せていた。

しかし、気づけばここは“兵どもが夢の跡”。あれだけ華やかで美しかった場所が、今や寂れに寂れて久しく。現在のその場所を訪れる度に、なんとも言えない哀しみに襲われる。これは、華やかなりし頃を知っている者がゆえの、『ほんのノスタルジー』的な感情なのかとも思うのだが。

バブルという、一時代を囲った“傘”が閉じられたことでもたらされた、“悲劇的な結末”。これも、いわゆるひとつの“カタストロフィ”…そのものだったようである。

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プロフィール

icon_sr70&80年代アイドル、歌謡曲、ピンク・レディー、昭和ポップカルチャー好き。高円寺・円盤「鈴木啓之のミュージックガーデン」、FMおだわら「ラジオ歌謡選抜」にゲスト出演。「歌謡曲リミテッド」でコラム連載中。ブログ「昭和TVワンダーランド」の運営者です。

ハンドル名:チェリー(CHERRY★CREEK)
好きな音楽:70-80年代アイドル歌謡全般、歌謡曲、米英50-60sティーンポップ、古き良き時代のジャズボーカル、フリッパーズギターなど
好きな歌手:1960-80年代の日本で唄っていた、歌謡曲の歌手全員
好きなもの:昭和にまつわるものすべて、音楽鑑賞、レコードや昭和アイドルグッズ集め、食べ歩き、パソコン、エッセイを書くこと、昼寝
よろしくないクセ:哀愁のオリエント急行に、たま~に乗ってしまうこと 笑)
得意なもの:トーク(特に70-80年代アイドルや歌謡曲について)、丁寧な言葉で話すこと、グラフィックデザイン、文章を書くこと、英会話、料理
出身地:東京、日本
国籍:日本
生息地:オーストラリアのメルボルン(永住権)、たまに神奈川県
経歴:2015年12月「鈴木啓之のミュージックガーデン」(於:高円寺 円盤)、2016年1月FMおだわら「ラジオ歌謡選抜」第132回放送分「昭和アイドル・ワンダーランド」(ゲスト)、2016年5月 歌謡曲情報サイト「歌謡曲リミテッド」 にてコラム連載開始
「80年代アイドル☆ピンク・レディー☆昭和TVワンダーランド」
http://blogs.yahoo.co.jp/cherrycreekjp

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