東京レコード散歩 その➄ 赤坂<前篇>
鈴木 啓之 (アーカイヴァー)

長い歴史と伝統文化が息づく大人の街赤坂。多くの歌の舞台となった。
赤坂は六本木と同様にJRの駅がないメトロの街。丸の内線沿線の町で育った自分にとっては、千代田線の赤坂駅よりも赤坂見附の方がなじみ深い。この日も同行のT氏と見附の駅上のベルビー赤坂で待ち合わせた。
以前、横断歩道を渡った目の前、赤坂東急ホテルの1階にレコード屋さんがあり、CDの時代になってもしばらく営業していた。今から10年前に赤坂東急ホテルが赤坂エクセルホテル東急にリニューアルされたというから、その頃までだったかもしれない。そういえば、作曲家の村井邦彦さんもその昔赤坂で「ドレミ商会」というレコード店を経営されていたそうだが、場所はどの辺りだったのだろうか。
2階にはフーターズ、地下にはサイゼリヤとだいぶ様変わりした東急プラザを横目に見つつ外堀通りを溜池方面へ歩くと、かつてのホテルニュージャパンがあった場所はすぐ。例の火災の後にホテルが閉鎖されてからも、十数年にも亘って建物がそのままで痛々しかったが、今はプルデンシャルタワーと呼ばれる高層ビルが聳えている。ここの地下に伝説のナイトクラブ、ニューラテンクォーターがあったのだ。力道山が刺された場所として有名になってしまったが、選ばれた大人の夜の社交場、一度は訪ねてみたかった。日本の大物スターをはじめ、多くの海外アーティストもライヴを行なった聖地として知られており、同地でのナット・キング・コールやヘレン・メリルのライヴ音源は最近になってまとめられたCDで聴くことが出来る。さらに当時の詳しい話を知りたい向きは元オーナーの山本信太郎氏や、元営業部長の諸岡寛司氏が著された書を読むべし。昭和のナイトクラブは華やかだった。

徳川家御用達の神社だった赤坂日枝神社
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さらに進むと見えてくる山王日枝神社も外国人アーティストと縁がある。来日の際ここで撮った写真がジャケットに使われたのがベンチャーズ。この日も参拝を兼ねて、彼らが記念撮影した祠の前でシャッターを切った。境内から降りてゆく階段もジャケ使用頻度の高いポイントである。ザ・ワイルド・ワンズのセカンド・アルバムのジャケットに写っているのもたぶんここだろう。ワイルド・ワンズといえば加山雄三、加山雄三といえばビートルズ来日の際の奇跡の会談。というわけで、その時彼らが宿泊したのが、神社と隣接していた旧ヒルトンホテルである。『007は二度死ぬ』の撮影時にショーン・コネリーが宿泊したのも東京ヒルトンであったという。その後、同じ建物のままキャピトル東急となり、今では建て替えられた巨大なビル、キャピトルタワーの中にザ・キャピトルホテル東急として営業再開しているが、すっかり現代風になって往時の面影はない。
同行のT氏は以前の建物が閉館する直前、ビートルズが泊まったプレジデンシャルスイートの1005号室に入ったという、実にうらやましい話を聞かせてくれた。
- 以前のキャピタル東急ホテル。2006年撮影
加山雄三が訪ねて、彼らと一緒にすき焼を食した時の記念写真は、昭和の芸能史に残る大スクープだったと思う。ホテルの目の前、溜池交差点の手前にはかつての東芝レコードがあった。後の東芝EMI時代には大きなビルが建てられたその場所、ずっと昔はダンスホールのフロリダだったという。

以前ここに東芝EMIのビルが建っていた
ロビーに掲げられていた越路吹雪の大きなパネルを見たユーミンが、いつか自分もという思いを密かに抱いたことを、2013年に岩谷時子賞を受賞した席で披露していた。いい話である。ビートルズもベンチャーズも加山雄三もワイルド・ワンズも、さらにはクレージー・キャッツに坂本九、黛ジュン、奥村チヨに岡崎友紀・・・皆かつては東芝レコードに所属していた。レコードを集めていた自分にとって、魅力ある歌手がひしめく東芝レーベルは特に思い入れが強いだけに、先頃遂に東芝EMIという会社が無くなってしまったのは本当に淋しい。それでなくても今回歩いた一帯は、神社を除いてすべて〇〇跡で、昔あった建物が失われてしまったところばかりであった。赤坂プリンスホテルもまた然り。昭和39年の東京オリンピックに合わせて開業されたホテル群の老朽化は仕方なかろうが、由緒ある建造物が次々と消えてゆく。高層ビルが増え、物々しい警備ばかりが横行する現状にいささか閉口しながら、昭和の面影を残す物件を求めて、赤坂の街をもう少し彷徨ってみることにした。

建て替え前のキャピトル東急ホテルのプレジデンシャル・スイート。2006年撮影
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