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第4回「だんご3兄弟」の真実

第4回「だんご3兄弟」の真実

鈴木啓之(アーカイヴァー) 

平成が終りに近づき、雑誌やテレビでこの30年間を振り返る企画が増えてきた。音楽についてもCD時代を迎えてミリオンセラーが続出したバブル期が再検証される機会が多く、そうなると当時の販売形態だった8センチシングルのことが必然的に想い出されることになる。一般的に短冊CDが流通したのは80年代の終りから00年代の頭までだから、そこにすっぽりと填る90年代に一番売れたCDは何? という問いの答えが「だんご3兄弟」である。CDシングル史上はもとより、日本の音楽史においてもシングル売上げ歴代5位(2018年10月現在)という、歴史的な一枚なのだ。

発端となったのはCMプランナーの佐藤雅彦が自著『クリック』に書いた「だんごが兄弟だったら一番上と一番下どちらが長男か?」という疑問。同書を目にしたNHK『おかあさんといっしょ』のディレクターの発案で歌が制作されることになった。佐藤の作詞とプロデュースの下、内野真澄が共作詞と作曲、堀江由朗が共作曲と編曲を手がけ、歌のおにいさんとおねえさんの速水けんたろうと茂森あゆみが歌ったシングルはポニーキャニオンから1999年3月3日に発売されると初回に出荷された80万枚が即完売となり、発売3日目に250万枚を出荷する特大ヒットとなる。もちろん1999年のオリコン年間シングルチャート1位を獲得。第41回日本レコード大賞の特別賞を受賞したほか、日本ゴールドディスク大賞など数々の賞を受賞している。最終的な出荷枚数は380万枚(一部350万枚の報道もあり)、当時はオリコン歴代シングルチャート3位を記録したが、その後、サザンオールスターズ「TSUNAMI」、SMAP「世界に一つだけの花」が抜かれるも歴代5位の記録は凄い。

当時、どれくらい売れているんだろうと渋谷のHMV店内で観察していたら、短時間に夥しい数のCDがレジに運ばれてゆく光景を目にした。それこそだんごの串をつまんで口に運ぶが如く、細長いCDシングルがひょいと摘まれてあっという間に目の前の店頭在庫が減ってゆくのだった。あれは本当に凄かった。一時はあの「およげ!たいやきくん」を超えるではないかと噂されたほど。さすがにそこまでには至らなかったものの、90年代の終りに登場したスーパーヒットに間違いなかった。こうしたノヴェルティソングのミラクルが昔から音楽界にたびたび興っているのは周知の事実だろう。同じタンゴの曲調ということもあって当然思いだされるのが、1969年に出され、翌70年にかけて大ヒットした「黒ネコのタンゴ」である。歌はまだ子供だった皆川おさむ。「だんご3兄弟」がヒットするやいなや、皆川に「だんご3兄弟」をカヴァーさせ、「黒ネコのタンゴ」とのカップリングで発売されたのは本家から僅か一ヶ月後のことで、実に素早かった。機を見るに敏なプロデューサーに拍手。柳の下の泥鰌リリースに目がないこちらとしては当然喜び勇んで購入した。ほかにもラテンの大御所、トリオ・ロス・バンチョスがカヴァーしたり、ピアノ界の貴公子、リチャード・クレイダーマンが演奏してタイトルに掲げたアルバムも、自分にあきれつつもある種の義務感にかられてレジに運んだのでした。

そもそも、だんごの串が4つ刺しなのは業界の伝統だったらしく、そこに目を付けたフォロワーソングが「元祖だんご4兄弟」だった。ブームに乗ってそれまで串に4つ刺していただんごを3つに変える業者に反発し、簡単に伝統を破るのはけしからんと主張するだんご屋チェーン店のプロデュースによるものだったという。レッド・ケイの詞はだんご3兄弟に生き別れの妹がいたという設定。なにしろ、『男はつらいよ』の舞台となる寅さんの実家「とらや(途中からくるまやに変更)」のモデルとなった葛飾・柴又の歴史あるだんご屋さん、高木屋老舗でさえ、ブームに火がつき始めた1999年2月末から串に3つ刺した「兄弟だんご」を発売して人気を得たというから「だんご3兄弟」人気の凄さが窺える。ちなみにブームの沈静化とともに売上も落ち込み、同商品は半年足らずで製造が打ち切られた由。

幼稚園や小学校の遊戯などに使われた、いわゆる実用盤のカヴァー演奏物はさらに数多くあったに違いないが、自分の目に届いたCDシングルのフォロワーソングでは、『それいけ!アンパンマン』の挿入歌として大和田りつこらが歌った「タンゴおでん三姉妹」がある。たしかに串に3つ刺さった姿はだんごよりおでんの印象の方が強い。これはひとえに「おそ松くん」のチビ太のおかげ。そこに目を付けてすかさずアンパンマンに登場させたやなせたかし先生もさすがである。そしてもうひとつ、かつて中森明菜の「少女A」を「熟女B」に転化させた実績のある五月みどりが“SATSUKI”名義で出した「おどる三世代」も紛れもなくブームが生んだ一曲であった。「おどるポンポコリン」の要素も入っているところがまたニクい。娘、母、祖母の三世代がフイットネスでいつまでも元気でセクシーにという、若さの権化ともいうべき五月さんならではの素晴らしい歌。フォロワーソングもなかなかどうして、捨てたものではないのであった。こうした柔軟な対応も、CDが最もよく売れていた短冊時代ならでは動きだったといえる。同種のヒットではその後も「おさかな天国」「おしりかじり虫」などがあるけれども、そろそろこの手のミラクルヒットがまた生まれてもいい頃なのでは!?

速水けんたろう、茂森あゆみ、ひまわりキッズ、だんご合唱団「だんご3兄弟」 ポニーキャニオン PCDG-00107 1999.3.3

皆川おさむ「黒ネコのタンゴ/だんご3兄弟」 マーキュリー PHDL-90701 1999.4.7

トリオ・ロス・パンチョス「だんご3兄弟」 日本クラウン CRDP-216 1999.6.23

シャレッターズ「元祖だんご4兄弟」 日本クラウン CRDN-619 1999.5.5

3 Beauties(大和田りつこ・岡崎裕美・篠崎仁美)「タンゴおでん三姉妹」 バップ VPDG-20810 1999.8.21

3 Beauties(大和田りつこ・岡崎裕美・篠崎仁美)「タンゴおでん三姉妹」 バップ VPDG-20810 1999.8.21

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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