トップページ コラム/レビュー 8cmの嗜み 第5回「ナイアガラ短冊道中」(前篇)

第5回「ナイアガラ短冊道中」(前篇)

第5回「ナイアガラ短冊道中」(前篇)

鈴木啓之(アーカイヴァー) 

大瀧詠一師匠が天上に住処を移して早5年。有り難いことに我々ファンは毎年新しいCDを手にすることが出来、昨今では未発表音源まで聴けるという恩恵に蒙っている。現在のようにリマスター盤が頻繁に出されるようになる以前、ニューアルバムを待ち焦がれていたナイアガラーたちの楽しみは、プロデュース作品やカヴァー作品などの関連盤を買い漁ることだった。『EACH TIME』が出されたあと、ナイアガラーの端くれとなっていた私も不思議な使命感に捉われながら、それらのレコードを買い続けた。やがてデジタルの時代が到来し、アナログからCDへとメディアが移行する中、80年代の終りから約10年の間に出されたナイアガラ関連のCDシングルも少なからず存在している。当然のごとくそれらも追い求めたわけだが、改めて見返してみると一度買い逃すと後ではなかなかお目にかかれない代物ばかり。時系列で追ってみよう。

ナイアガラ関連の最初のCDシングルは、大瀧がプロデュースしたアルバム『ジス・イズ・ミスター・トニー谷』からのシングル・カットで、シングルレコードと同時に88年2月にリリースされた「さいざんす・マンボ スペシャル・ザンス・ミックス」(連載第1回で紹介)だろう。続いて出されたのが、小泉今日子に提供された主演映画のテーマソング「快盗ルビイ」だった。88年10月、シングルレコードと同時リリース。コレクターとしては当然の如く両方を買わなければならない。さらにカセットテープも購入した。当時は既にCDの方がシェアを上回っていた筈。映画を監督した和田誠はこの主題歌をあまり気に入っていなかったらしい。といっても決して大瀧の曲が良くなかったからではなく、作曲も出来る和田が本当は主題歌も自分で作りたかったからなのだ。というわけで真田広之と共に歌われるカップリング曲「たとえばフォーエバー」は作詞・作曲共に和田が手がけている。その後、91年に「キスを止めないで」とのカップリングで出された再発シングルには、オリジナル・カラオケも収められた。また、2002年の小泉のベストアルバム『KYON3 〜KOIZUMI THE GREAT 51』には、大瀧のデモテープがミックスされた“小泉今日子&大瀧詠一デュエット・ヴァージョン”が収録されてナイアガラーは歓喜したものである。

89年10月の稲垣潤一「バチェラー・ガール」は、85年にレコード発売されたもののCD化でカップリングも一緒。レコードは初回プレス分がカラーレコードの赤盤で作られた。稲垣は翌90年のアルバム『セルフ・ポートレート』で「恋するカレン」をカヴァーしたほか、2001年にもアルバム『エンドレス・チェイン』で「カナリア諸島にて」をカヴァーして翌2002年にマキシシングルで発表している。参考までに80年代に大瀧が他のアーティストに提供したヒット曲では、松田聖子「風立ちぬ」が89年に、小林旭「熱き心に」が92年に、森進一「冬のリヴィエラ」が93年に、それぞれCDシングルで再発されているが、いずれもベストカップリング盤でデザインも凡庸なのでここでは割愛させてもらった。

90年は該当する盤が無く、次のリリースは91年4月になる。キリン「ワインクラブDANCE」CMソングとして、元セブンティーンクラブの森丘祥子がカヴァーした「夢で逢えたら」。小西康陽がプロデュースとアレンジを手がけた秀逸なカヴァーだ。9月には同曲のほか「ブルー・ヴァレンタイン・デイ」のカヴァーも収録されたアルバム『夢で逢えたら』がリリースされ、翌92年3月にはカップリング曲を廃してカラオケとリミックスを収めたシングルがデザインを一新してリリースされた。ピチカート・マニアとナイアガラー、両方の観点から押さえておきたいコレクターズ・アイテムである。

92年夏はNTTサンクスフェアのイメージソングとして、細川たかしが「レッツ オンド アゲイン」をカヴァーした。88年の「おそ松くん音頭」を聴いて、これはナイアガラ・ワールドにも填まるに違いないと思っていた身としては快哉を叫びたくなるナイス・カヴァーで、井上鑑のアレンジも言うことなし。ちびまる子ちゃんのキャラクターとのコラボCMがジャケットにも反映されて楽しい。同年12月に公開された映画『さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』では大滝詠一『1969年のドラッグ・レース』が採り上げられており、その縁が95年のアニメ『ちびまる子ちゃん』主題歌へとつながってゆくわけだが、その前に一枚、94年には記念すべきナイアガラレーベル初の8センチCDがリリースされた。山下達郎「パレード」とシュガー・ベイブ「DOWN TOWN」のカップリングである。フジテレビ系『ポンキッキーズ』のエンディング・テーマに使用されたことによるシングル・カットで、イントロのピアノ・ソロとエンディングのSEがカットされた82年のリミックス・ヴァージョン、つまりAB面逆の形で出されていた82年のシングルレコードのCD化ということになる。このシングルから3ヶ月後にシュガー・ベイブのアルバム『SONGS』も2度めのCD化(オリジナルマスターでは初)が成された。大滝詠一のニューアルバムこそ一向に出される気配はなかったが、90年代に入っても全国のナイアガラー諸氏は音盤収集に勤しんでいたのだ。

小泉今日子「快盗ルビイ」 ビクター VDRS-1097 1988.10.26

稲垣潤一「バチェラー・ガール」 ファンハウス 00FD-4035 1989.10.25

森丘祥子「夢で逢えたら」a-type ワーナーミュージック WPDL-4221 1991.4.25

森丘祥子「夢で逢えたら」b-type ワーナーミュージック WPDL-4290 1992.3.25

細川たかし「レッツ オンド アゲイン」 コロムビア CODA-37 1992.6.21

山下達郎「パレード」 イーストウエスト・ジャパン AMDM-6103 1994.1.25

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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