トップページ コラム/レビュー 8cmの嗜み 第6回「ナイアガラ短冊道中」(後篇)

第6回「ナイアガラ短冊道中」(後篇)

第6回「ナイアガラ短冊道中」(後篇)

鈴木啓之(アーカイヴァー) 

大瀧詠一がソニー傘下のOo Recordsに取締役兼プロデューサーとして参加したのが94年。その翌年には同レーベルからナイアガラ短冊期の頂点ともいえる一枚、「うれしい予感/針切じいさんのロケン・ロール」が登場する。いずれもフジテレビのアニメ『ちびまる子ちゃん』主題歌で、原作者のさくらももこ作詞による渡辺満里奈「うれしい予感」がオープニング・テーマ、植木等「針切じいさんのロケン・ロール」がエンディング・テーマのナイスなカップリングである。「うれしい予感」は作曲活動を再開した大瀧による久々のオリジナルソングということで大層嬉しく、さらにクレージー・キャッツ好きの自分としては、植木等の起用に快哉を叫んだ。
「スーダラ伝説」のヒットで巻き起こった平成の植木等ブームを影で支えていた大瀧が、「実年行進曲」以来となる正面きってのコラボに挑んだのは最高のニュースだった。シェブ・ウーリー「The Purple People Eater」のカヴァーだが、大瀧もラジオで好んでかけていた、ロカビリアンの清野太郎による日本語カヴァー「ロックを踊る宇宙人」(1958年)のさらなるカヴァーといえるだろう。かの『ローハイド』にも出演していた俳優が全米ヒットさせたノヴェルティソングを持ってきて植木に歌わせた大瀧の卓越したセンスには脱帽するしかない。オリジナルもTVアニメーションのために歌われたものであったという事実にニヤリとさせられる。それを情緒たっぷりに、おそらく最大限に楽しみながら歌った植木もまたアッパレ。この一枚によってどうしても欲しくなった清野太郎の「ロックを踊る宇宙人」のオリジナルシングルをずっと探しているのだが、あれから20年以上経つ今もまだ入手出来ず・・・。せめて復刻盤を出していただけないものであろうか。

さらに同年7月には大瀧プロデュースによる『植木等的音楽』という素晴らしいアルバムが発売されるに至る。『スーダラ伝説』に『スーダラ外伝』、ライヴ盤まで出された平成の植木等のアルバムはもうさすがに打ち止めだろうと思っていたところ、前作『スーダラ外伝』から4年ぶりとなるうれしい贈りものだった。盟友・谷啓がトロンボーンを披露する「旅愁」、裕木奈江が相手役を務めた「花と小父さん」などのペーソス溢れる曲から、三波春夫との豪華共演による「新二十一世紀音頭」に、「針切りじいさんのロケン・ロール」のアルバム・ヴァージョンといった賑やかな曲、極め付けは大滝詠一「ナイアガラ・ムーン」に「FUN×4」のまさかのストレートなカヴァーでマニア悶絶。これがまた植木でなければ歌えない、深みのある秀逸なカヴァーなのであった。その中からシングル・カットされたのが「サーフィン伝説」と「FUN×4」で、「スーダラ伝説」に倣った「サーフィン伝説」は、「ワイブアウト」「太陽の彼方」「パイプライン」「ミザルー」などのサーフィン・ナンバーが連なる怒涛のメドレー。植木のトボケた魅力がなんとも痛快だ。「FUN×4」は女声パートの“散歩しない?”に渡辺満里奈が起用されて、ナイアガラ世界における『ちびまる子ちゃん』ワークスの延長となった。そして大瀧と渡辺満里奈とのコラボは、翌96年3月の大瀧プロデュースのアルバム『Ring-a-Bell』へと結実する。同アルバムからのシングル・カットが無かったのはちょっと残念だが、実はHMVで特典用に作られた非売品の8センチCD(OCDO-92001)が存在しており、そこには渡辺満里奈自身による声のライナーノーツが収録されていた。

96年のナイアガラ関連8センチは1枚のみ。当初はプロモーションオンリーで作られた大滝詠一の85年のアルバム『SNOW TIME』収録の「夏のリビエラ」をボサノバカサノバがカヴァーしたシングルである。大瀧が森進一に提供した「冬のリヴィエラ」の英語版セルフカヴァーのさらにカヴァーという少々ややこしい構図になっている。『SNOW TIME』が奇しくも同じ96年に“CD選書”の一枚として一般発売されるに至ったのも何かの縁だろう。というか、もしかすると『SNOW TIME』発売を祝してのカヴァーであったろうか。「夏のリヴィエラ」ではなく「夏のリビエラ」なのが気になるが、大滝版がこの表記だから仕方ないし、それを言い出したら“ボサノバカサノバ”ではなく“ボサノヴァカサノヴァ”とすべきところ。ちなみに大瀧も名場面集ビデオの編集に携わった東宝クレージー・キャッツ映画の代表作『クレージー黄金作戦』では、ラスベガスに実在するホテル「リヴィエラ」でクレージー・キャッツやザ・ピーナッツのショーが繰り広げられる。森進一の「冬のリヴィエラ」が発売された時、真っ先にそれを想い出したナイアガラーは少なくないはずだ。

そして97年、遂に大滝詠一の新曲「幸せな結末」が、自身初にして、結果的に最後となる8センチCDの形でリリースされる。本家本元のこの一枚についての詳しい経緯はここでは敢えて省くが、月9ドラマ『ラブジェネレーション』の主題歌としてミリオンセラーに迫る大ヒットとなり、つい先ごろまで出荷されていた国民的作品である。12年ぶりとなる新作シングルが、短冊CDが流通していた約10年の間に該当して良かった。大滝詠一名義の8センチが無いのはあまりに淋しいから。2003年に出された次のシングル「恋するふたり」はマキシ形態でのリリースとなった。再びミュージック・シーンの第一線に躍り出た大瀧は『ラブジェネレーション』にポスターで出演していた新人・市川実和子のプロデュースを手がけ、98年にデビュー・シングル「ポップスター」を作曲する。なお初回盤はシール付のスペシャルパッケージ仕様で出されており、シングルは2形態が存在しているのでコレクターは要注意。発売は前後するが、この年はソニーでもう一枚、「玉カルのアンアン小唄」もプロデュースした。細川たかし「レッツ オンド アゲイン」といい、大瀧のコミックソングの90年代における秀逸なリメイク・ワークス。玉川カルテットは水を得た魚の如くの名唱でもともと彼らのために作られた歌のよう。井上鑑のアレンジもぬかりがない。スタジオで満足そうにほくそ笑む大瀧の姿が想像されてならない。この勢いで中原理恵の「風が吹いたら恋もうけ」を天童よしみにカヴァーしてもらいたかった。

 

渡辺満里奈「うれしい予感」 ダブル・オーレコード OODO-5001 1995.2.22

植木 等「サーフィン伝説」 ファンハウス FHDF-1499 1995.8.21

ボサノバ カサノバ「夏のリビエラ」 ビクター VIDL-10976 1996.7.24

大滝詠一「幸せな結末」 ソニー SRDL-4500 1997.11.12

玉川カルテット「玉カルのアンアン小唄」 ソニー SRDL-4545 1998.6.20

市川実和子「ポップスター」 エピック ESDB-3867 1998.10.1

8cmの嗜み 記事一覧

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プロフィール

鈴木 啓之

鈴木 啓之(すずき ひろゆき)

アーカイヴァー。昭和40年東京生まれ。テレビ番組制作会社に勤務の後、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業へ。昭和の歌謡曲、テレビ、映画について雑誌などへの寄稿、CDやDVDの監修・解説を主に手がける。著書に『王様のレコード』(愛育社)、『昭和歌謡レコード大全』(白夜書房)など。現在、月刊てりとりぃ誌に「古書とスイーツの日々」を連載。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』にレギュラー出演中。

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